小説家 石野 晶
岩手県出身、岩手県在住。
四葉を見つけるのが得意。
2007年に『パークチルドレン』で第8回小学館文庫小説賞を受賞し小説家デビュー。
2010年には『月のさなぎ』で、第22回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。
徳間文庫より新刊『水光舎四季』発売しました。是非、手にとってみてください。

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ミモザ日誌 4話

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これはネゴノキ村に巡回士としてやってきた私の記録誌です。


(金曜日)

庭の草取りをしていて、生垣の下の辺りに黄色い花が咲いているのを見つけました。線香花火がパッと弾けたのをそのまま花にしたようなものが、幾つか固まって房になっています。

ミモザだと気がつきました。緑の葉の中に一房だけ花をつけているのです。

自分の名前と同じ花が庭に咲いているのがうれしくて、お昼はミモザサラダを作りました。

(日曜日)

巡回に出かけようとして、気がつきました。生垣が何だかやけに明るいのです。庭を囲む生垣の半分ほどが、ミモザの花で覆われているのでした。まるで金モールで家を覆われてしまったようで、眩しくて目がちかちかします。

たった二日でどうしてここまで広がってしまったのでしょう。ミモザがこれほど生命力のある木だとは知りませんでした。

(水曜日)

朝家のドアを開けると、外は金色の洪水でした。ミモザの枝が庭中を横切り這い回って、黄色の花の海となっていたのです。

最初は線香花火ほどに控えめだった花が、今は空いっぱいを覆う打ち上げ花火のようでした。花の匂いが立ちこめてめまいがしそうなほどです。

「ミモザです」

花の向こうからかわいらしい声がしました。生垣の向こうから、くりくりとした目の男の子がのぞいていました。その後ろに白い羽が見えます。あら、天使だわ、と花をかき分けて近づいてみると、翼男さんに肩車されたタマゴちゃんでした。

「やあ、きれいな花畑だね。でも少し切ったほうがいいんじゃないかな」

翼男さんに言われて、その通りだと思い、お隣から剪定バサミを借りてきて、さっそくミモザの枝を切りました。

(金曜日)

どういうわけなのでしょう。今朝起きてみたら、窓の外が黄色の花でいっぱいなのです。あわてて外に出てみると、ミモザの花が家を覆うようにのたくって、庭は花の迷路状態です。

困りきっていると花の壁の向こうから、声がしました。どうやら翼男さんのようです。

「だから切ったほうがいいって言ったのに」

「ミモザの枝ならおととい切りましたよ」

「いや、僕が言ったのは木のほうじゃなくてね、君の髪のことなんだけど」

「髪? 私の髪が何の関係があるんですか?」

「ためしに切ってみたら」

とにかくこのままでは、外へ出かけるのもままなりません。翼男さんに言われるまま、伸ばしっぱなしだった髪を肩の辺りで切りそろえてみました。

するとどうでしょう。窓を覆っていた黄色の花がするすると見えなくなっていきます。

外へ出てみると、暴発した花火のように暴れまわっていた黄色の花は、生垣の隅っこで何事もなかったようにつつましく咲いています。

「すっきりしただろ」

生垣から顔を出して、翼男さんが笑っていました。

少しだけ短くなった髪をなでると、ミモザの香りがしました。

 

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