小説家 石野 晶
岩手県出身、岩手県在住。
四葉を見つけるのが得意。
2007年に『パークチルドレン』で第8回小学館文庫小説賞を受賞し小説家デビュー。
2010年には『月のさなぎ』で、第22回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。
徳間文庫より新刊『水光舎四季』発売しました。是非、手にとってみてください。

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ミモザ日誌 5話

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これはネゴノキ村に巡回士としてやってきた私の記録誌です。


 

午後の巡回で村を回っていたら、庭のブランコに座っていたおじいさんに声をかけられました。

「お疲れさん、お茶でも飲んでいきませんか」

ご好意に甘えて、白い箱型のブランコに乗りこむとおじいさんの向かいに腰かけました。出されたお茶は赤みがかった茶色をしていて、花の香りがします。

お茶を飲みながら他愛ない世間話をしていたら、おじいさんがうたた寝を始めてしまいました。お茶も飲み終わったことだし、もう失礼しようかと思いましたが、せっかくブランコに乗っているのだからと、おじいさんを起こさないように気をつけながら静かにブランコを動かしてみました。

きしみながら動き出したブランコが、ゆっくりと二回ほど行き来します。そのとたんに目の前のおじいさんの姿が消えて、気がつくと小さな三つ編みの女の子がちょこんと腰かけていました。

「こんにちは」

何が起きたのかと目を丸くしている私に、女の子はにっこりして膝の上にいたウサギを抱き上げました。

「この子ミミちゃんって言うの」

ブランコはゆっくりと揺れています。女の子がウサギを私の手に渡そうとした時、パッと女の子の姿が消えてその代わりにメガネをかけた男の人が座っていました。

膝の上に広げていた本を読んでいた男の人は、私に気がつくと驚いたように顔をあげました。

「おや、ブランコが繋がってしまいましたね。そこはどちらですか」

「ネゴノキ村です」

「ずいぶん遠いところですね。電車なら五時間はかかってしまう」

「私がそちらへ移動してしまったのでしょうか? あなたがこちらへ来たのでしょうか?」

「どちらでもないですよ。ブランコですからね。お互いそれぞれの場所にいて、顔を合わせているだけです」

彼の説明にますます頭が混乱してきます。キイキイと音を立ててブランコが揺れ、男の人の姿が見えなくなります。そして代わりにそこに座っていたのは、よく知った顔でした。

「お父さん!」

離れた町にいる父です。久しぶりに顔を合わせるのに、父は当たり前のような顔で話しかけてきました。

「母さんのやつ犬のエサを買いに行って、まちがって猫のエサを買ってきてね、今取り替えにいったところだ」

実家では、大きな黒い犬を飼っているのです。ペスという名前で、真っ赤な長い舌をいつでもだらりとたらしています。

「そうそう犬といえば、うちのペスがね…」

父がそう言いかけた時、ブランコが揺れ父の姿が消えました。そこにはおじいさんが眠っているだけです。

お父さん、ペスが一体どうしたっていうんですか?

 

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