小説家 石野 晶
岩手県出身、岩手県在住。
四葉を見つけるのが得意。
2007年に『パークチルドレン』で第8回小学館文庫小説賞を受賞し小説家デビュー。
2010年には『月のさなぎ』で、第22回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。
徳間文庫より新刊『水光舎四季』発売しました。是非、手にとってみてください。

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ミモザ日誌 6話

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これはネゴノキ村に巡回士としてやってきた私の記録誌です。


 

巡回で村を回っていたら、広場でしょんぼりしている男の子を見つけました。男の子は割れた風船を手にしています。

「風船が割れちゃったの?」

声をかけると、男の子は顔を上げました。

「あのね、手紙を持ってってもらおうと思って、風船につけて飛ばしたんだよ。でもね、途中で割れちゃったの」

「手紙って、どこに送りたいの?」

「天国」

男の子の澄んだ目に、きれいな青空が映っていました。

「天国のおじいちゃんにね、手紙書いたんだよ。何度も何度も、風船につけて飛ばしたの。でもね、いくら待ってもお返事が来ないの。風船じゃ、天国まで届かないのかなあ」

一生懸命な男の子の姿を見ていると、胸がつんとしました。どうにかして、男の子の願いをかなえてあげたい。思わず私は言いました。

「あのね、お姉ちゃんの知り合いに天使がいるの。その手紙おじいちゃんに届けてもらえるように、頼んでみるね」

男の子から手紙を預かって、私は翼男さんのところへ行きました。

事情を話すと、思ったとおり翼男さんは不機嫌そうに顔をしかめました。

「僕は飛べないし、第一天使でもない」

「でもあの子、すごく真剣だったんです。おじいちゃんからの手紙だって言って、届けてもらえませんか?」

「嘘の手紙を届けるのか? しかも天使だって嘘をついて」

「嘘だって、人助けになるんならついてもいいじゃないですか」

うーんと考えこむ翼男さんの背中を押すように、私は言いました。

「ひとまず、この手紙開けてみましょうよ」

人の手紙を勝手に開けるなんて、とぶつぶつ言う翼男さんを振り切って、私は封を開けてしまいました。便箋には一行だけ、こう書かれていました。

『天国はどんなところですか?』

「一体これに、どんな返事を書くって言うんだ?」

「私にまかせてください」

私は胸を張って、ニッコリしてみせました。

 

三日後、巡回の途中にあの男の子に会いました。お日様のような笑顔で、ニコニコ私に向かって手を振ります。

「お姉ちゃん、天使様が本当におじいちゃんの返事を持ってきてくれたんだよ。ほらっ」

男の子は一枚のハガキを私に見せてくれました。自分で描いたものでしたが、私は初めて見るように感心してみせます。

ハガキの裏いっぱいに広がる青空の絵。それがおじいちゃんからの返事でした。

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