ミモザ日誌 6話
これはネゴノキ村に巡回士としてやってきた私の記録誌です。
巡回で村を回っていたら、広場でしょんぼりしている男の子を見つけました。男の子は割れた風船を手にしています。
「風船が割れちゃったの?」
声をかけると、男の子は顔を上げました。
「あのね、手紙を持ってってもらおうと思って、風船につけて飛ばしたんだよ。でもね、途中で割れちゃったの」
「手紙って、どこに送りたいの?」
「天国」
男の子の澄んだ目に、きれいな青空が映っていました。
「天国のおじいちゃんにね、手紙書いたんだよ。何度も何度も、風船につけて飛ばしたの。でもね、いくら待ってもお返事が来ないの。風船じゃ、天国まで届かないのかなあ」
一生懸命な男の子の姿を見ていると、胸がつんとしました。どうにかして、男の子の願いをかなえてあげたい。思わず私は言いました。
「あのね、お姉ちゃんの知り合いに天使がいるの。その手紙おじいちゃんに届けてもらえるように、頼んでみるね」
男の子から手紙を預かって、私は翼男さんのところへ行きました。
事情を話すと、思ったとおり翼男さんは不機嫌そうに顔をしかめました。
「僕は飛べないし、第一天使でもない」
「でもあの子、すごく真剣だったんです。おじいちゃんからの手紙だって言って、届けてもらえませんか?」
「嘘の手紙を届けるのか? しかも天使だって嘘をついて」
「嘘だって、人助けになるんならついてもいいじゃないですか」
うーんと考えこむ翼男さんの背中を押すように、私は言いました。
「ひとまず、この手紙開けてみましょうよ」
人の手紙を勝手に開けるなんて、とぶつぶつ言う翼男さんを振り切って、私は封を開けてしまいました。便箋には一行だけ、こう書かれていました。
『天国はどんなところですか?』
「一体これに、どんな返事を書くって言うんだ?」
「私にまかせてください」
私は胸を張って、ニッコリしてみせました。
三日後、巡回の途中にあの男の子に会いました。お日様のような笑顔で、ニコニコ私に向かって手を振ります。
「お姉ちゃん、天使様が本当におじいちゃんの返事を持ってきてくれたんだよ。ほらっ」
男の子は一枚のハガキを私に見せてくれました。自分で描いたものでしたが、私は初めて見るように感心してみせます。
ハガキの裏いっぱいに広がる青空の絵。それがおじいちゃんからの返事でした。
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