ミモザ日誌 7話
これはネゴノキ村に巡回士としてやってきた私の記録誌です。
今日もネゴノキ村はいい天気です。道の周りにチューリップが並んで咲き揺れています。
広場を通りかかると、一人の女の子が木に顔を押しつけていて、もう一人の女の子がそろそろと木に近づいていきます。
「トンビが落っこちた」
木に顔を押しつけていた女の子が、歌うように言いながらパッと振り向きます。その瞬間に動いていた女の子がピタリと止まり、足を上げたままで動かなくなります。
どうやら、だるまさんが転んだと同じような遊びをしているようです。
「トンビが落っこちた」
また女の子が言って、振り向きます。もう一人の女の子が動きを止めます。向かい合った二人を見て、驚きました。真ん中に鏡があるように、そっくり同じ顔です。双子なのでしょう。
二人は私が見ているのに気がつくと、遊びを途中でやめて走り寄ってきました。
「お姉さん、一緒に遊ぼう。他の人がいないとつまんないの」
「うん、いいわよ」
「じゃあ、お姉さんがオニね」
二人はキャーッと歓声を上げて、木から離れたところに立ち、準備万端というように私を見ます。私は木の側へ行くと、さっき女の子がしていたように木に腕と顔を押しつけて、言いました。
「トンビが落っこちた」
振り向くと、女の子がピタリと止まります。髪を二つに結んだ、水玉のワンピースがよく似合う、そっくり同じ顔の二人がそれぞれのポーズで固まっています。
「トンビが落っこちた」
ゆっくり言って振り向いた私は、ポカンとして固まってしまいました。二人だったはずの女の子が、四人になっているのです。それもみんな同じ顔です。
あんまり驚いたので見つめたままでいると、足を上げた女の子が苦しそうな顔になってきました。あ、続けないと、とまた木に向かいます。
「トンビが落っこちた」
振り向くと、女の子は八人に増えていました。木を囲むようにぐるりと並んで、思い思いのポーズで止まっています。これ以上増えたらどうしようと思いながらも、私は腕の上に顔を伏せました。
「トンビが落っこちた」
振り返ると、そこらじゅう女の子だらけでした。もう数えるのも無理なほどに、木の周りが同じ顔の女の子で埋め尽くされています。
もう一度振り向いたら、大変なことになってしまうんじゃないかしらと、私がとまどっている時でした。
「こら、ゆりちゃん、その遊びしちゃだめって、いつも言ってるでしょう」
女の子のお母さんでしょうか。エプロンをつけた女の人がやってきて、立ち並ぶ女の子の群れの中へ入っていきます。そして真ん中辺りにいた一人の腕をつかみました。
その途端、広場中にいた女の子がパッと消えて、残ったのは、お母さんに腕をつかまれている一人だけでした。
「もう、帰りますよ」
「お姉ちゃん、また遊ぼうねえ」
お母さんに引っ張られながら、女の子は元気に手を振っていました。
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