小説家 石野 晶
岩手県出身、岩手県在住。
四葉を見つけるのが得意。
2007年に『パークチルドレン』で第8回小学館文庫小説賞を受賞し小説家デビュー。
2010年には『月のさなぎ』で、第22回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。
徳間文庫より新刊『水光舎四季』発売しました。是非、手にとってみてください。

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ミモザ日誌 7話

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これはネゴノキ村に巡回士としてやってきた私の記録誌です。


今日もネゴノキ村はいい天気です。道の周りにチューリップが並んで咲き揺れています。

広場を通りかかると、一人の女の子が木に顔を押しつけていて、もう一人の女の子がそろそろと木に近づいていきます。

「トンビが落っこちた」

木に顔を押しつけていた女の子が、歌うように言いながらパッと振り向きます。その瞬間に動いていた女の子がピタリと止まり、足を上げたままで動かなくなります。

どうやら、だるまさんが転んだと同じような遊びをしているようです。

「トンビが落っこちた」

また女の子が言って、振り向きます。もう一人の女の子が動きを止めます。向かい合った二人を見て、驚きました。真ん中に鏡があるように、そっくり同じ顔です。双子なのでしょう。

二人は私が見ているのに気がつくと、遊びを途中でやめて走り寄ってきました。

「お姉さん、一緒に遊ぼう。他の人がいないとつまんないの」

「うん、いいわよ」

「じゃあ、お姉さんがオニね」

二人はキャーッと歓声を上げて、木から離れたところに立ち、準備万端というように私を見ます。私は木の側へ行くと、さっき女の子がしていたように木に腕と顔を押しつけて、言いました。

「トンビが落っこちた」

振り向くと、女の子がピタリと止まります。髪を二つに結んだ、水玉のワンピースがよく似合う、そっくり同じ顔の二人がそれぞれのポーズで固まっています。

「トンビが落っこちた」

ゆっくり言って振り向いた私は、ポカンとして固まってしまいました。二人だったはずの女の子が、四人になっているのです。それもみんな同じ顔です。

あんまり驚いたので見つめたままでいると、足を上げた女の子が苦しそうな顔になってきました。あ、続けないと、とまた木に向かいます。

「トンビが落っこちた」

振り向くと、女の子は八人に増えていました。木を囲むようにぐるりと並んで、思い思いのポーズで止まっています。これ以上増えたらどうしようと思いながらも、私は腕の上に顔を伏せました。

「トンビが落っこちた」

振り返ると、そこらじゅう女の子だらけでした。もう数えるのも無理なほどに、木の周りが同じ顔の女の子で埋め尽くされています。

もう一度振り向いたら、大変なことになってしまうんじゃないかしらと、私がとまどっている時でした。

「こら、ゆりちゃん、その遊びしちゃだめって、いつも言ってるでしょう」

女の子のお母さんでしょうか。エプロンをつけた女の人がやってきて、立ち並ぶ女の子の群れの中へ入っていきます。そして真ん中辺りにいた一人の腕をつかみました。

その途端、広場中にいた女の子がパッと消えて、残ったのは、お母さんに腕をつかまれている一人だけでした。

「もう、帰りますよ」

「お姉ちゃん、また遊ぼうねえ」

お母さんに引っ張られながら、女の子は元気に手を振っていました。

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