小説家 石野 晶
岩手県出身、岩手県在住。
四葉を見つけるのが得意。
2007年に『パークチルドレン』で第8回小学館文庫小説賞を受賞し小説家デビュー。
2010年には『月のさなぎ』で、第22回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。
徳間文庫より新刊『水光舎四季』発売しました。是非、手にとってみてください。

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ミモザ日誌 9話

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これはネゴノキ村に巡回士としてやってきた私の記録誌です。


今日は年に一度の村のお祭りの日です。お祭りは日が沈んでから広場で行われるのですが、その準備のために朝からみんな忙しそうに走り回っています。

隣のおかみさんの家でごちそう作りの手伝いをしていたら夕方になり、私は家に戻りとっておきの服に着替えて外に出ました。

日は沈み空にはよく磨いた金属のような月が出ています。月明かりを浴びながら、広場へ向かう人の列ができています。私もその中に混じって、広場へ向かいます。

広場への道端には、花の形のガラスのろうそく立てが置かれ、オレンジ色の灯りがゆらゆらと揺れていました。木の枝にはカンテラが吊るされて、暗い道を照らしています。見渡せば闇の中にオレンジ色の灯りがポカリポカリと浮かび、いつも通っている村の道が知らない場所に見えます。

広場に辿り着くと、入り口で金平糖のようなものをもらい口にしました。いつか知らずに食べてしまったネゴの実です。

広場には村中の人達が集まっていて、村人の数と同じくらいの猫達も集まっていました。今夜は猫と人とが一緒に楽しむお祭りなのです。

広場の中央にあるもみの木にも、あちこちの枝にカンテラが吊るされていました。枝には幾つもの白や黄色のリボンが結ばれています。その下に置かれているのは、猫達へのプレゼントの山です。私も持ってきた小さな包みを、その中に加えました。中身は煮干です。

テーブルには持ち寄られたごちそうが並び、村の人達が歓談しながら楽しんでいます。テーブルに備えつけられた椅子は、猫達のためのものです。猫はそこにあがり、取り分けてもらったごちそうを食べています。

私もテーブルを囲む輪に加わると、白いケーキを皿に取りました。上にチョコレートのクリームが載っています。フォークで口に運ぼうとしたところ、隣の椅子にいた猫が「ちょっとちょっと」と話しかけてきました。

「それ、あんた達の食べ物じゃないよ」

えっと、ケーキをよく見てみると、白いご飯の上にかつおぶしをどっさりのせた猫用ケーキです。まあ危なかったと、そのお皿は猫に譲りました。

テーブルの下には大きなたらいにミルクを入れたものが置いてあり、猫が夢中になって舐めています。「ああ、もう俺、この中でおぼれてもいい」一匹の猫が本当にミルクの海に飛びこみそうになり、周りの猫が慌てて押さえていました。

夜が更けてきて月が真上に差しかかると、猫達がもみの木に登り始めました。それぞれの枝にきれいに並んで座り、もみの木が猫達のマンションのようです。

月に向かって祈るように、猫達は歌い出しました。少年のような細い声、少女のような繊細な声。大人の女の人のようなあでやかな声。大人の男の人のような力強い声。あらゆる声がきれいに重ねあわされて、一つの歌となっています。

お祭りの熱気は最高潮に達し、みんな一緒に歌いながら踊りだします。踊りの輪が次第に大きくなり、みんなで手を繋いでもみの木を囲んで踊ります。

踊りながら私は、じぶんがすっかりこの村の一員となっているのを感じていました。

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