小説家 石野 晶
岩手県出身、岩手県在住。
四葉を見つけるのが得意。
2007年に『パークチルドレン』で第8回小学館文庫小説賞を受賞し小説家デビュー。
2010年には『月のさなぎ』で、第22回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。
徳間文庫より新刊『水光舎四季』発売しました。是非、手にとってみてください。

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ミモザ日誌 10話

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これはネゴノキ村に巡回士としてやってきた私の記録誌です。


 

ネゴノキ村は今日もいい天気で、温かな陽射しが降り注いでいます。洗濯物を外に干そうとドアを開けて、驚きました。

さんさんと陽が注いでいるのに、ポソポソと雪が降っているのです。何かの見間違いかしらと、手を伸ばして雪を受け止めてみると痺れるような冷たさです。

初夏と言ってもいい季節なのに、これはどういうことかしらと、家の中に戻って考えこみました。窓から見ていると、雪はすごい勢いで積もっていきます。庭を真っ白に染め、庭を囲むミモザの花にも、花壇のバラにも降り注いでいきます。

大変、お花が枯れてしまうと、傘を持って外に出ました。家の周りを見渡して、気がつきました。雪で真っ白なのは、私の家だけなのです。家の上に低く雪雲がたれこめて、ここだけに雪を降らせています。家の敷地を一歩出れば、いつもどおりさんさんと金色の陽射しが注いでいます。

「ちょっとあんた、何のんびりしてるんだい」

隣のおかみさんが、雪に気づいて走ってきました。

「早く雪だるまを、どこかに持っていくんだよ」

「雪だるまって、なんですか?」

「家の裏にあるんだよ。ハンカチ落としを知ってるだろ。あれとおんなじでね、雪だるまが家の裏に置かれたら、雪が降るんだよ」

急いで家の裏に回ってみると、確かにありました。大きな雪だるまが。おかみさんが後ろで、「ほらね」と腕を組んでいます。

「そいつを抱えて、どこかの家の裏に置いてくるんだよ。家の人間には気づかれないようにね。気づかれて逃げる前につかまったら、やり直しだからね。一応言っとくけど、うちはだめだからね」

雪だるまを抱えるといっても、大きい上に冷たくて移動するのは大変です。それでも家が雪に埋もれてしまっては困るので、よいしょよいしょと運びました。

とりあえず目についた家の裏に、心の中でごめんなさいとあやまりながら、雪だるまを置きました。私と一緒に移動してきていた雪雲が、その家めがけて雪を降らせます。みるみるうちに、家も庭も雪に埋もれていきます。

雪に気がついた家の人が、ドアを開けて出てきました。あ、逃げなきゃと思ったときにはもう、走ってきた家の人に私はつかまっていました。

やり直しです。また雪だるまを抱えて、よいしょよいしょと運びます。見つけた家の裏にそっと置いて、今度こそうまく逃げなきゃと思っていると、いち早く気づいた家の人が出てきて、逃げる私と追いかけっこになりました。鬼ごっこは昔から苦手です。すぐにつかまり、またやり直しです。

雪だるまを抱えて、私は途方にくれました。もうくたくたです。

「あんた、要領悪いねえ」

誰がしゃべったのかと見ると、腕の中の雪だるまでした。

「人の家に雪降らせたくないんなら、誰かが喜ぶところに置いていけばいいのに」

どういう意味かしらと考えて、あ、と気がつきました。雪だるまを抱え直して、よいしょよいしょと広場まで運びます。もみの木のそばに雪だるまを置くと、たちまち広場が雪でいっぱいになりました。

雪が積もっているのに気づいた子供達が集まってきて、たちまち広場は手袋をはめた子供でいっぱいになりました。あちこちで小さな雪だるまができ、雪合戦が始まります。

夕方になるころには、雪もやみ、元通りの暖かさがもどってきました。雪はみるみる溶けていき、あの雪だるまも小さな固まりとなっていました。

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