小説家 石野 晶
岩手県出身、岩手県在住。
四葉を見つけるのが得意。
2007年に『パークチルドレン』で第8回小学館文庫小説賞を受賞し小説家デビュー。
2010年には『月のさなぎ』で、第22回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。
徳間文庫より新刊『水光舎四季』発売しました。是非、手にとってみてください。

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ミモザ日誌 12話

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これはネゴノキ村に巡回士としてやってきた私の記録誌です。


午後の巡回をしていると、タマゴちゃんに会いました。いつも翼男さんの背中にくっついているのに、今日は一人で歩いています。

「タマゴちゃん、こんにちは。今日は一人なの?」

「はい。編み物おばあさんに会いにいくんです」

どんな人なのか気になって、私も一緒についていくことにしました。

初めて会った時に比べると、タマゴちゃんはずいぶん大きくなったような気がします。最初は確かに三歳ほどだったのに、今は五歳くらいに見えるのでした。

タマゴちゃんは、大きなネムの木のあるお家の門をくぐっていきました。玄関へは向かわずに、家の裏へと歩いていきます。

裏庭にはねむの木が葉を広げ、そのレース模様のような影の中で、おばあさんが椅子に腰掛けて編み物をしていました。

白い毛糸がおばあさんの操る編み棒で、みるみる編まれていきます。それはやがて白いふっくらとした固まりになり、おばあさんが手を止め、編み棒からはずして手の平に乗せると、一羽の白い鳥となり空へ飛び立っていきました。

びっくりして見つめていると、おばあさんが私達に気がついて顔を上げました。

「おや、私に何か用かい」

「編んでもらいたいものがあります」

目の前まで歩いてきたタマゴちゃんを、おばあさんはかけていたメガネを直して、しげしげと見つめています。

「ぼくも、お父さんみたいな、羽が欲しいんです」

「ああ、翼男さんのところの子だったね。いいよ。白い毛糸がまだあるからね」

おばあさんはするすると、毛糸を編んでいきます。タマゴちゃんはその横にちょこんと座り、編まれていく羽を見つめています。私もタマゴちゃんの横に座り、おばあさんの見事な手つきを眺めていました。

「あんた、どうして羽がほしいんだい」

「お父さんと、同じになりたいんです」

「見た目が似ていれば、いいってものでもないと思うけどねえ」

銀色の編み棒がキラキラと光を弾きながら、白い羽を編んでいきます。おばあさんの膝の上に、みるみる編まれていく羽は、ふわふわとして本物の鳥の翼のようでした。

「さあ、できた。これでどうだい」

おばあさんが手を止めると、見事な一対の白い羽ができあがっていました。タマゴちゃんがうれしそうに手を伸ばします。

おばあさんが編み棒をはずした瞬間でした。白い羽が勝手にはばたき、タマゴちゃんの手をすり抜けて飛んでいきます。

「ぼくの羽なのに」

タマゴちゃんはジャンプして羽をつかもうとしますが、その手の上をパタパタと羽は飛び、やがて空高く舞い上がり戻ってきませんでした。

「しょうがないねえ。あれは、あんたには必要ないものだったっていうことだよ」

しょんぼりするタマゴちゃんのために、おばあさんはまた何かを編み始めました。白い毛糸がふわふわとした固まりになり、ピョコンと長い耳が出てきます。

おばあさんが手を止めて棒をはずすと、白いウサギがピョンとはねて、タマゴちゃんの肩に乗りました。ウサギをなでて、やっとタマゴちゃんは笑顔になりました。

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