小説家 石野 晶
岩手県出身、岩手県在住。
四葉を見つけるのが得意。
2007年に『パークチルドレン』で第8回小学館文庫小説賞を受賞し小説家デビュー。
2010年には『月のさなぎ』で、第22回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。
徳間文庫より新刊『水光舎四季』発売しました。是非、手にとってみてください。

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ミモザ日誌 13話

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これはネゴノキ村に巡回士としてやってきた私の記録誌です。


掲示板に音楽祭のお知らせが貼られているのを見つけました。次の日曜日のお昼ごろと、開始時間があいまいなら、どこでやるのかも書いていません。

通りかかったご婦人に、「この音楽祭は、どこでやるのですか?」と尋ねてみました。

「村の中ならどこでも聞けますよ。よい風が吹きますように」

ご婦人はそよ風のようにささやいて、にっこり会釈して去っていきました。

 

日曜日が近づくにつれて、音楽祭の準備が整ってきました。

林や道沿いの並木や庭の植木。あらゆる木の枝に色々なものがぶらさげられています。

金属の細い筒をいくつもさげたもの。二枚の貝殻を合わせて吊るしたもの。

鈴やベルは形も大きさも違うものが、クリスマスのもみの木のように飾りつけられて、キラキラと光を弾いています。

しだれ柳の枝にはマラカスとトライアングルがくくりつけられ、丈の低い庭木の横には竪琴が置かれました。

私も家にあるものを、庭のミモザの木に結びつけていきました。ガラスの風鈴。屋根裏にあったタンバリン。家中の引き出しを引っくり返して、鈴も残らず吊り下げました。

すれ違う人達はみんな、「よい風が吹きますように」とそよ風のようにささやきます。「よい風が吹きますように」私も覚えたてのささやきを返します。

 

日曜日の朝は、遠慮がちに風が吹いていました。お昼になるにつれて風はだんだん強くなり、村中の木の枝を揺らし出します。

吊り下げられた鈴達が、リンリンと澄んだ音を奏で始めました。

風はしだいに強くなり、屋根裏部屋の窓から眺めていると、あちこちの木の枝がしなり、吊り下げられたものが揺れるのが見えます。

シャンシャン、リンリン、シャラシャラ、ティントン。

村中の枝が奏でる音が一つに溶け合っていって、聞いたことのない音楽になっていきます。見えない大きな人が奏でる音楽のようでした。

「よい風が吹きました」

ささやいた私の声も、音楽の中に溶けこんでいきました。

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