小説家 石野 晶
岩手県出身、岩手県在住。
四葉を見つけるのが得意。
2007年に『パークチルドレン』で第8回小学館文庫小説賞を受賞し小説家デビュー。
2010年には『月のさなぎ』で、第22回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。
徳間文庫より新刊『水光舎四季』発売しました。是非、手にとってみてください。

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ミモザ日誌 15話

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これはネゴノキ村に巡回士としてやってきた私の記録誌です。


屋根裏部屋の窓辺には、小さな宝石箱を置いています。

窓を開けたまま出かけて帰ってくると、宝石箱の蓋が開いていて、指輪やブローチが箱の周りに散らばっていました。

大変、泥棒かしらと駆け寄ってみると、お母さんからもらった大事な真珠のネックレスがなくなっています。

窓枠を見ると、黒い羽が落ちていました。どうやらカラスの仕業のようです。

窓を開けっぱなしにしていた私も悪いんだし。カラスが相手じゃ、探しようがないし。でも大事にしていたネックレスだったのに。

泣くに泣けない気持ちでため息をつくと、黒い羽が窓の外へ飛んでいきました。

 

庭の草取りをしていたら、キキョウの花の下に真珠の粒が転がっているのを見つけました。

立ち上がって探してみると、ありました。木の枝にちぎれたネックレスが引っ掛かっています。糸が切れてしまって、残っているのはほんの何粒かの真珠でした。

木の下を探し回ってどうにか、こぼれ落ちた真珠粒を拾い集めました。集めた真珠を糸に通してみると、元の長さにはまだ少し足りないようです。

だけど木の下をいくら探しても、他の真珠は落ちていませんでした。

 

毎日庭へ出たついでに真珠を探しているのですが、一粒も見つかりません。真珠が落ちていた場所のキキョウは、蕾をふくらませて今にもはじけそうです。

キキョウの花を毎日見ているうちに、おかしなことに気がつきました。蕾は幾つもついて、パンパンにふくらんでいるのに、一つも花を開こうとしないのです。何だか、がまんくらべでもしているようです。

蕾をそっと指でつついてみると、柔らかな花びらの膜ごしに、何か硬いものがこつんと指に当たりました。

ひょっとしたら、と思い当たり、「ごめんなさい」と声をかけながら風船のようにふくらんだ蕾をつまみました。

指の先に力を入れると、パンッと紙風船を割ったような音を立てて、蕾は弾けました。花びらの間に隙間が空き、そこからコロコロと真珠が一粒転がり落ちてきました。

次の瞬間、他の蕾も次々と音を立てて、弾け出しました。その中からポロポロと真珠の粒が落ちてきます。

「真珠が欲しかったんですか?」

声をかけるとキキョウは、かすかに身をゆらしました。

キキョウの花からこぼれた真珠は十粒でした。私はそれを糸でつなぐと小さなネックレスにして、キキョウの枝にかけました。

「花が終わるまでですよ」

キキョウは何だかうれしそうに、葉をゆらしました。

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