小説家 石野 晶
岩手県出身、岩手県在住。
四葉を見つけるのが得意。
2007年に『パークチルドレン』で第8回小学館文庫小説賞を受賞し小説家デビュー。
2010年には『月のさなぎ』で、第22回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。
徳間文庫より新刊『水光舎四季』発売しました。是非、手にとってみてください。

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ミモザ日誌 16話

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これはネゴノキ村に巡回士としてやってきた私の記録誌です。


夏を前にしてネゴノキ村は、どこへ行っても花ざかりです。

巡回に出かけようとすると、お隣のおかみさんが庭を掃除していました。色とりどりの花が描かれたエプロンをしています。

「こんにちは。そのエプロンの花、きれいですね」

近くでエプロンを見せてもらうと、そこに花が咲いているように鮮やかな色合いです。

「この花、本物みたいですね。どうやったらこんな風になるんですか?」

絵を描く人間としては、ぜひとも知りたいところです。

「ああ、これはね、花の丘で染めてきたんだよ。白い布とか紙とか一時間も置いとけば、花が写るよ」

花の丘は村の南端にある丘です。巡回のついでに、さっそく行ってみました。

ピンクに水色、薄紫に黄色。柔らかな色合いの花が緑の丘の上で、ドレスのスカートのように揺れています。

おかみさんに教わったとおり、花の上に白いハンカチをそっと置いて待ちます。

風がそよそよと頬をなでて、周りで花が歌うように揺れています。温かな陽射しが眠気をさそい、あくびを一つすると私は花の中に横になっていました。

 

カラスの鳴き声に目を覚ますと、もう日がかたむき始めていました。

ハンカチを見れば、きれいに花が写っています。よかった、成功したとハンカチをつまみあげた時、気がつきました。

手に花の模様が写っているのです。見てみると、着ている服も花模様に、スカートの下の足も花模様です。

大変大変と、あわてて家に帰り、鏡を見てみました。思ったとおりでした。顔まで花模様です。

マスクにつばの広いボウシをかぶって、お隣さんをたずねました。出てきたおかみさんは私の格好を見ただけで、笑い出しました。

「あんたならやるんじゃないかと思ってたけどね。うっかりもここまで来ると、大したもんだよ」

「笑ってないで、どうしたらいいか教えてください」

「三日で、きれいに消えるよ。それまで我慢することだね」

 

おかみさんの言うとおり、一日二日とじっと我慢しました。巡回に出る時はマスクにボウシをかぶり、長袖とタイツで肌を隠しました。

三日目の日、ああ、今日でやっと終わりだと思っていると、ドアがノックされました。

「ミモザさん、洗濯ものが飛んでいますよ」

干しっぱなしにしていた洗濯もののことを思い出し、私はあわてて外へ飛び出しました。ドアの外にいたのは、翼男さんでした。

「おや、ミモザさん、きれいですね」

花の模様のことを思い出し、悲鳴を上げると、翼男さんが笑いながら洗濯ものを差し出しました。

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