小説家 石野 晶
岩手県出身、岩手県在住。
四葉を見つけるのが得意。
2007年に『パークチルドレン』で第8回小学館文庫小説賞を受賞し小説家デビュー。
2010年には『月のさなぎ』で、第22回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。
徳間文庫より新刊『水光舎四季』発売しました。是非、手にとってみてください。

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ミモザ日誌 17話

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これはネゴノキ村に巡回士としてやってきた私の記録誌です。


 

庭で草むしりをしていたら、楽しそうな歌声が聞こえてきました。

ランランラララララン。ランランラララララン。

垣根の外へ出てみると、翼男さんが背の高い男の人の両肩に手を置いて、ダンスを踊っています。

「ミモザさんもどうですか?」

楽しそうなので、私も翼男さんの後ろに続きました。背中の羽がちょっと邪魔ですが、翼男さんの両肩に手を置いて、二人の真似をして足を出します。

「右、右、左、左、前にジャンプ、後ろにジャンプ、前、前、前」

歌に合わせて翼男さんが、親切に教えてくれます。ダンスしながら進んでいくと、村のあちこちの家から人が出てきて、私も私もと、ダンスの列がどんどん長くなっていきます。

ランランラララララン。ランランラララララン。

口ずさむ声がどんどん大きくなり、ちょっと振り向いてみると、私の後ろにずらっと人が並んでいてびっくりしました。

「ところで今日は、タマゴちゃんは一緒じゃないんですか?」

翼男さんは、いつでもタマゴちゃんを連れて歩いています。初めて会った時は翼の中にいたタマゴちゃんは、すくすく成長していました。

「タマゴなら、前にいるよ」

「えっ、だってその人は…」

翼男さんの前にいるのは、すらっと背の高い男の人です。あの小さかったタマゴちゃんのはずがありません。

右、右、左、左、ジャンプ、ジャンプ。

ダンスを続けながら、翼男さんが説明してくれます。

「タマゴはね、僕の子供じゃないんだ」

「どういうことですか?」

「ミモザさんがこの村に来る一ヶ月くらい前のことだったかな。広場にある木の下で、卵を見つけたんだよ。抱えなきゃいけないような大きな肌色をした卵だった」

ランランラララララン。歌声がまた大きくなり、気をつけていないと、彼の声を聞き逃しそうです。

「何が出てくるかと思って、翼で抱えて卵を温めていたんだけど。一週間後に生まれたのがタマゴだった。人の姿をしているのには驚いたけどね。翼の中で育てていたら、どんどん大きくなって、この数日で一度に大きくなって僕の背まで追い越してしまった」

翼男さんの声は、何だかさびしそうです。卵から生まれたタマゴちゃんは、長い列の先頭で前を見つめたままです。

「これはね、タマゴの見送りの列なんだよ」

彼の言葉に、胸をつかれたような気がしました。見送りということは、タマゴちゃんはどこかに行ってしまうのでしょうか。

後ろを向いてみると、人の列は最後が見えないほどに繋がっていました。村中の人が並んでいるようです。歌声がわんわんと空へと響きます。

「タマゴはね、何になるか、自分で決めたんだよ」

少しだけほこらしげに、翼男さんが言った時でした。タマゴちゃんが足を止め、列の動きも歌も止まりました。

タマゴちゃんの背中に、白い翼がついているのが見えました。

「お父さん、今までお世話になりました」

ペコリと頭を下げて、タマゴちゃんは羽を動かしました。白い羽根があたりに散って、ふわりとタマゴちゃんの体が空に浮きます。

「元気でね」

手を振る翼男さんに手を振り返し、羽ばたくとタマゴちゃんは空高く飛び立ちました。

「タマゴちゃんは、飛べるんですね」

「僕の子ではないからね」

翼男さんは、泣きそうな顔をしていました。

「子供じゃなくても、子供みたいに大事だったんですね」

「そうだね」

翼男さんは前を向いて、ダンスを始めました。その肩に手を置くと、私の後ろにまた列が繋がっていき、歌が響き始めます。

タマゴちゃんを見送る列は、どこまでもどこまでも続いていました。

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