その後のミモザ日誌
これはネゴノキ村に巡回士としてやってきた私の記録誌です。
私がネゴノキ村にやって来て、初めての秋が訪れました。
森の木々は赤や黄色に染まり、野原では銀色のススキがサヤサヤと風の音色を奏でています。
巡回に出たところで、翼男さんに会いました。
「やあ、ミモザさん。これからクリ拾いに行くんだけど、一緒にどうだい?」
「いいですね。行きましょう」
クリ林にはイガグリがたくさん落ちていました。イガの中には、ツヤツヤとした大きなクリがみっしりとつまっています。翼男さんと二人で、しばらく黙々とクリを拾い集めました。
静かな林の中で、動くたびくつの下で落ち葉がカサカサと鳴きます。時々パタッと音を立てるのは、落ちてくるドングリのようです。
カゴがクリでいっぱいになったころ、「この奥にビックリの木があるんだ」と翼男さんが言いました。
「ビックリって何ですか?」
「自分の目で見てごらんよ」
林の奥に歩いていくと、ピカピカと光る木がありました。あちこちにイガがついているのですが、それが銀色に光っているのです。
「このイガは一人一つだけ、拾っていいことになってるんだ」
「一つだけですか。迷いますね」
地面に落ちているイガはどれも口を開けていないので、どんなクリが入っているのかもわかりません。しばらく悩んで、手の平くらいの大きさのものを選びました。翼男さんも自分のを選んだようです。
「さあ、開けてみよう」
翼男さんが火箸を使って、イガを開けてくれます。私のイガから出てきたのは、クリではなくて家のカギのようでした。翼男さんのイガから出てきたのは、どういうわけかおしゃぶりです。
「これはこれは、びっくりだな」
「びっくりですね」
翼男さんはしばらく二つの物を見て考えこんでいましたが、やがてカギを手にとりました。
「このカギは、どうやら僕の家のカギのようだ」
「そうなんですか。どうしてそれが、私のイガに入っていたんですか?」
「ビックリにはね、近い将来その人にとって必要となるものが入っているんだよ。だからこのカギは、ミモザさんのものだ」
「それ、どういうことですか?」
「だからね、つまり・・・」
翼男さんはモゴモゴと言うばかりで、何だかはっきりとしません。林の中に、ドングリの落ちるパタパタという音だけが響いています。
ところでおしゃぶりは、一体誰が使うのでしょうか?
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