小説家 石野 晶
岩手県出身、岩手県在住。
四葉を見つけるのが得意。
2007年に『パークチルドレン』で第8回小学館文庫小説賞を受賞し小説家デビュー。
2010年には『月のさなぎ』で、第22回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。
徳間文庫より新刊『水光舎四季』発売しました。是非、手にとってみてください。

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その後のミモザ日誌

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これはネゴノキ村に巡回士としてやってきた私の記録誌です。


私がネゴノキ村にやって来て、初めての秋が訪れました。

森の木々は赤や黄色に染まり、野原では銀色のススキがサヤサヤと風の音色を奏でています。

巡回に出たところで、翼男さんに会いました。

「やあ、ミモザさん。これからクリ拾いに行くんだけど、一緒にどうだい?」

「いいですね。行きましょう」

クリ林にはイガグリがたくさん落ちていました。イガの中には、ツヤツヤとした大きなクリがみっしりとつまっています。翼男さんと二人で、しばらく黙々とクリを拾い集めました。

静かな林の中で、動くたびくつの下で落ち葉がカサカサと鳴きます。時々パタッと音を立てるのは、落ちてくるドングリのようです。

カゴがクリでいっぱいになったころ、「この奥にビックリの木があるんだ」と翼男さんが言いました。

「ビックリって何ですか?」

「自分の目で見てごらんよ」

林の奥に歩いていくと、ピカピカと光る木がありました。あちこちにイガがついているのですが、それが銀色に光っているのです。

「このイガは一人一つだけ、拾っていいことになってるんだ」

「一つだけですか。迷いますね」

地面に落ちているイガはどれも口を開けていないので、どんなクリが入っているのかもわかりません。しばらく悩んで、手の平くらいの大きさのものを選びました。翼男さんも自分のを選んだようです。

「さあ、開けてみよう」

翼男さんが火箸を使って、イガを開けてくれます。私のイガから出てきたのは、クリではなくて家のカギのようでした。翼男さんのイガから出てきたのは、どういうわけかおしゃぶりです。

「これはこれは、びっくりだな」

「びっくりですね」

翼男さんはしばらく二つの物を見て考えこんでいましたが、やがてカギを手にとりました。

「このカギは、どうやら僕の家のカギのようだ」

「そうなんですか。どうしてそれが、私のイガに入っていたんですか?」

「ビックリにはね、近い将来その人にとって必要となるものが入っているんだよ。だからこのカギは、ミモザさんのものだ」

「それ、どういうことですか?」

「だからね、つまり・・・」

翼男さんはモゴモゴと言うばかりで、何だかはっきりとしません。林の中に、ドングリの落ちるパタパタという音だけが響いています。

ところでおしゃぶりは、一体誰が使うのでしょうか?

 

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